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◆夫婦で世界一周





写日記46.悲喜こもごも

ナミビア(キートマンスフープ、ナミブ砂漠、ウィントフック)

2008年6月27日〜7月1日



喜望峰にデンしたあとは、途中名前もよく分からぬ田舎町のキャンプ場で一泊し、翌日の昼過ぎにナミビアとの国境に到着した。一気に800キロ北上したことになる。


ナミビアも南アフリカと同じくダイヤモンドなどの鉱山資源に恵まれ、比較的豊かな国だと聞く。1990年まで国連の決議を無視し続けた南アフリカに併合されていたので、この国にもアパルトヘイトが及んでいたというのは意外と知られていない事実。さらにその前はドイツの植民地だったので、ドイツ語もちらほら見かける。


独立後のナミビアは政治、経済、治安ともに安定していることに加え、フィッシュリバーキャニオン、ナミブ砂漠、そしてエトーシャ国立公園などの観光資源にも恵まれているので、ヨーロッパ人に人気の観光国となった。金さえ出せば、それなりのクオリティーが得られる国として。


これらの予備知識に加え、ケープタウンにあったナミビア政府の観光局がとても洗練されていたので、さぞかしきっちりとした国なんだろうという読みを持って入国した。ところがどっこい、入国審査なんていうちんけな作業にやたらと時間をかける入国審査官のせいでイミグレは長蛇の列。入国を済ませるのに二時間近くかかった。


いけない、いけない。所詮、ここはアフリカなんだ。たまたまダイヤが採れるから潤ってはいるかもしれないが、よく言えば大らか、悪く言えばいい加減というのが本質らしき黒ちゃんの国なんだった。


目に見えない線を越えただけなのに、自然が変わったような気がした。南アフリカでは低木や雑草にすぎなくても大地は緑色をしている部分が多かったが、ナミビアに入ると砂礫がむき出しになり、草が生えてても枯れ草のような色をしていた。


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南アフリカでは緑も多かったけど、


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ナミビアに入ると、


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突如乾いた景色になってしまった


道路脇に現れる集落は茅葺きの小さな円形の家が集まったもので、僕の感覚では粗末と表現すべきものだった。ダイヤや観光業で潤っているのは国と一部の人間だけで、庶民にはほとんど関係のないことらしい。


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ダイヤモンドとは全く無縁と思われる民家


途中からは集落も姿を消した。乾いた草原にはアカシアなどのアフリカらしい木が見え始め、日没が迫った空は見事なグラデーションを成していた。ナミビア最初の目的地だったキートマンスフープ郊外のキバーツリーの森にはなんとか日が暮れる前に滑り込むことができた。


アフリカの木と言えばバオバブやアカシアがよく知られているが、キバーツリーも奇怪なアフリカ的な姿をしている。そのキバーツリーが群生しているキバーツリーの森は、僕がよく参考にさせてもらっている石川夫婦のホームページで知った場所。写真に一目惚れし、アフリカで絶対行ってみたい場所の一つになっていた。


夕暮れの空に映るキバーツリーのシルエットは素晴らしかった。心の琴線に触れるアフリカらしい景色にやっと出会えたという喜びを、カメラのファインダーを覗きながらかみしめた。完全に闇が支配するようになると、次は天の川の流れる星空が僕を幸せに導いてくれた。


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夕暮れのキバーツリーの森


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自然が演ずる影絵劇を見ているようです


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天の川がこんなにはっきりくっきり


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日が暮れると一気に冷え込む


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寒いキャンプ生活には湯たんぽが必需品


夜が空けたばかりのキバーツリーの森には、太陽をありがたがるように岩の隙間から顔をのぞかせるかわいい小動物がいた。太陽が高くなると、夕暮れや明け方には僕を虜にしたキバーツリーたちがずいぶんのっぺりとしたものになってしまった。


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明け方も絵になります


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キバーツリーは実は木ではなくて、アロエの一種らしい


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ひゃっほ〜


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岩場に何かいるの分かりますか?


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何なんでしょう?手前がおとな、奥のは子どもみたいです


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子どもたちは好奇心旺盛だけどビビリ屋さん


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見れば見るほどけったいな植物です


キャンプ場を出ようとしたところでチーターを見た。残念ながらこれはチーターへの餌遣りというアトラクションのために飼われているチーターだったが、悠々と歩く姿に食物連鎖の頂点に立つ者の威厳を感じた。これを自然の中で見たらさぞかし興奮するだろうなぁ。


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網越しとはいえ、目の前にチーターが!


次の目的地はナミブ砂漠。世界で一番古いとされている砂漠だ。ナミブ砂漠への道路は途中からダートとなり、これまでの舗装路のように時速140キロで飛ばすことはできない。そして、この先にナミビア一の観光地があることを疑いたくなるほど、交通量は少なかった。一時間ですれ違う車は片手で数えられる程度。


ときどき自転車や馬車に乗っている地元の黒ちゃんとすれ違う。彼らは車が巻き上げた砂埃にまみれ放題。それをいつもバックミラーで見ては申し訳なく思った。


ナミブ砂漠は国立公園に指定されていて、その中でキャンプをしようと思ったら600ナミビアドル(約8,400円)という高額を払わなくてはならない。しかし、ここに泊まらないと日の出の砂漠は見られないのでしぶしぶ支払った。


キャンプサイトは大きな木の下に設けられ一見気持ちがいい。しかし、よく見るとこの木にはコオロギがカブトムシぐらいに巨大化し、頑丈な鎧を身にまとったグロテスクな虫がうじゃうじゃといる。中には腹を結合させて交尾をしているヤツもいて、その姿を見ると鳥肌が立った。


今日も夕焼けは美しく、満天の星空は見飽きることがない。電灯のないキャンプ場では夜になるとこの虫も見えなくなったが、ときどきヘッドライトの光にその姿が浮かび上がってぎょっとした。


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一見雰囲気のいいキャンプ場ですが、


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木にはこんな虫がうじゃうじゃいてキモイ


翌朝、朝日が昇る前にDune45という名の砂丘に上り、日の出を待った。自分たちもその一人だから勝手な言い分だけど、観光客が多いのは興醒めだった。モロッコのサハラ砂漠で見渡す限りの砂漠を二人占めしたときほど、雄大な気分には浸れなかった。


しかし、アプリコット色と表現される砂漠の色はさすがにきれい。特に朝日が照らすその色は、神秘的なほどに赤かった。


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Dune45で日の出を待つ


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徐々に赤みを増してきた砂丘


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太陽が顔を出しました


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赤い砂漠がどこまでも続く


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こうやって見てもやっぱり赤い!


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Dune45の全景。こうやって見ると小さいけど、かなりの高さがあります


さらに奥のHiddenvleiという砂丘まで行ってみた。ここは誰もいなくていい。砂丘に取り囲まれた平坦な砂地があって、その部分は色が白い。雨季には水が溜まるのだろうか。


砂漠を楽しむには裸足で歩くに限る。太陽に熱せられた表面の下にはひんやりとした砂が眠っていて、足がそこに触れるとなんともいえない快感がある。やっぱり砂漠というのは一人(僕らの場合は二人)で対峙するに限る。風の音に対してのみ聴覚が鋭敏になったよう。ここにはそれ以外の雑音がない。


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Hiddenvleiにて。嫁さん、何をいじいじしているのかと思ったら、


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当サイトの宣伝でした(笑)


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たまには仲良さげな写真も


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僕の影と風紋


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砂と風が創り出す景色


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照りつける太陽。砂丘の上に嫁さんがいます


ナミブ砂漠一番の見所は道路の終点にあるSossusvleiだが、ここに行くには4WDの車が必要で、そうでなければ一人110ナミビアドル(約1,500円)もの金を払ってシャトルバスに乗らなければならない。ここまで来たらこれぐらいは惜しみなく払って行くべきなのだろうが、僕らは行かなかった。


キャンプ料金と入園料だけで10,000円以上も払わされ、さらにその上二人で3,000円も払う気に到底なれなかったのである。サハラほどの感動は得られそうにないし、これまでに見たナミブ砂漠でもう十分と思ったからだ。さらに、観光客から徹底的に金を搾り上げようとするナミビアの観光政策に、呆れを通り越して嫌悪感を抱いていた。


この分だと次のエトーシャ国立公園でも相当な出費を覚悟しないといけなさそうだが、さすがに自分たちの車で動物観察ができるというこの魅力的な公園をスルーすることはできない。少し重い気分でナミブ砂漠をあとにした。


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ナミブ観光、これにて終了


暗くなるまでに首都ウィントフックに到着したいと急いでいた。クドゥー(一見シカ科に見えるけど実はウシ科のアンテロープの一種)やバブーンが道路に現れる楽しい道。スピッツの歌なんぞを口ずさみながら気持ちよくアクセルを踏んでいた。


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逃げるバブーン


ハンドルが効かない!と思ったら、車がスピンし始めた。ジェットコースターにでも乗っているように目まぐるしく景色が変わり、激しい衝撃が襲った。気がつくと、車は土の側壁にぶつかって止まっていた。


二人とも怪我はない。よかった……。でも車は大怪我。右後輪を除く三輪がイカれてしまった。食材の卵が車内で割れて飛び散り、荷物が惨めなことになっている。さて、どうする?とりあえず、車を止めて助けを請わなければ。


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あ〜、やっちゃった……


幸い車はすぐに来た。手を上げると止まってくれた。白ちゃんの家族連れだった。携帯を借りてレンタカー会社に電話するがつながらず。どうすべきか決めあぐねていたら、お父さんが機転を利かせて助けてくれた。ウィントフックにいる彼の知り合いに電話をし、その知り合いに牽引車を手配するように頼んでくれたのだ。丁重に礼を言うと、家族はウィントフックの方向へ車を走らせていった。


牽引車が果たしてやって来るのか。不安ではあったがとりあえずそれに賭けるしかない。待っている間に卵の汚れを拭きとりつつ、荷物をまとめた。嫁さんに何度か謝ったが、「起こったことは仕方がない」と怒る様子もなく、いつもと変わらぬ態度で接してくれた。そうこうしている間にも何台もの車が止まってくれたが、「今、牽引車を待っているところだから大丈夫」と説明し、彼ら・彼女らの好意に礼を述べた。


これ以上待っても来なければ、次来た車に新たに助けを頼もうと考え始めたころ、牽引車はやって来た。ピーターという男が手際よく、動かなくなった車を牽引車の荷台に乗せた。そして僕らは助手席に乗り込み、暗くなりつつある道をウィントフックへと向かった。


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牽引車に乗せられるライト君


牽引会社のガレージの前に動かなくなったライト君を降ろしてもらい、僕らはその中で眠ることにした。この先旅はどうなるのか不安を抑えることのできない夜だったが、疲れていたので二人ともよく眠った。


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牽引車に囲まれて車中泊


翌日が大変だった。南アフリカのレンタカー会社にナミビアから電話するのにまず一苦労。ピーターがウィントフック市内に代理店があるという情報を教えてくれたのでそこに行ったが、「あなたのレンタカー会社とうちは何の関係もない」と怒り口調で言い切られてしまった。


あちこち駆け回って、ようやく電話連絡をとれた。英語の理解に不安は残ったが、代わりの車を急いで手配することを約束してくれた。契約書には「南アフリカ国外での事故に関しては保険は適用されない」なんて一文があったのでドキドキしていたが、僕らが支払うべきは牽引代と事故処理の手数料だけで済むということだった。


その日はウィントフック郊外のキャンプ場に宿泊した。ピーターの同僚が、キャンプ場まで車で連れて行ってくれた。ピーターをはじめとする牽引会社の従業員たちには本当に世話になった。彼らの助けがなければ、足も失い、携帯電話も持っていない僕らは途方にくれていたことだろう。


本当に代車が運ばれてくるのか半信半疑だったが、驚いたことに翌朝にはキャンプ場に新しい車が届いた。しかも新しい車はニッサンのティーダ。エアコンなしのツードアで、CDの音は飛びまくりだったライト君から大幅なグレードアップ。事故を起こした反省も忘れて、一瞬小躍り。


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届けられたティーダ君。ライト君よりずいぶん立派になりました


一時期はどうなることかと思ったが、終わってみれば一日のロスだけで、しかもグレードアップした車で旅を再開できることになった。名前も聞いてない人ばかりだけど、助けてくれた全ての人に改めて感謝。そして、僕があちこち駆け回っている間、動かない車で一人で待っている嫁さんも気が気じゃなかっただろう。申し訳ない。


さあ、気を引き締めて安全運転。まだまだアフリカ南部、レンタカーの旅は続く。


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所変われば品変わる。イボイノシシ注意の標識と、


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クドゥ注意の標識が多い道路。目指すはエトーシャだ!



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