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写日記39.トルコ駆け足十日間トルコ(イスタンブール、パムッカレ、カッパドキア、カンガル) 2008年5月16日~5月27日 マドリッドでの空港泊をはさんで、マラケシュからイスタンブールへと飛んだ。トルコから中東を経て陸路でエジプトへ。日本出発当初から頭に描いていたルート。その出発地点となるのがイスタンブールというわけだ。
「イスタンブール」という響きにはどこか惹かれるものがあった。そこに行くだけで、何かとても素敵なことが起きそうな予感を覚える。アジアとヨーロッパを含み、そして分かつ町。膨らんでいた期待と興奮は、茶色い町並みを二つに裂く青いボスポラス海峡が小さな窓の下に見えたときに最高潮に達した。 そう、そのときが最高潮だった。
イスタンブールの代表的観光地、ブルーモスク。ブルーっていうんだから、ターコイズブルーのタイルで作られた美しいモスクなんだろうと予想していたら、決して青くはないただのどでかいモスク。内部は土足厳禁なのが災いして、酸い匂いが神聖なモスクの中にたち込めている。イスラム教徒の皆さんには申し訳ないが、長居はお断りしたい場所だった。
アヤソフィアとトプカプ宮殿もがっかりする予感があったので、入場料を払ってまで入る気はなかった。が、たまたま何かの祝日で入場料が無料ということを聞き、行くだけ行ってみた。本当に行っただけに終わった。 名物のサバサンドを食してみたら小骨だらけだし、グランバザールは土産物屋が並ぶただの商店街みたいで味気なかった。物価は高いし……。
文句ばかり言いながらも、滞在していた日本人宿のTree of Lifeに置いてある『ドラゴンボール』や『ツルモク独身寮』を読破するためにイスタンブールに四泊もしてしまい……。でも、ガラタ橋周辺の賑わいやガラタ塔から見た夕焼けと夜景は悪くなかった。
イスタンブールがダメでも、トルコにはパムッカレやカッパドキアといった世界遺産がある。そちらに期待をスライドさせることにして、夜行バスに乗り込んだ。 トルコの長距離バスには運転手のほかに接客係が一人いて、飲み物やスナックを配ったり、乗客の乗降を確認したり、ビデオを再生したりと車内の雑用を一手にこなしている。なかなか気が効いているのが、コロンをふりかけてくれるサービス。少し体臭が気になる人が多いトルコでは、トイレの芳香剤のようなコロンの香りが鼻をごまかしてくれて助かった。空調もほどよく効いていて、下手な安宿より快適なぐらいだった。
さて、パムッカレ。無数の石灰棚が水で満たされている景勝地。ツアー会社のポスターなどでは、白い段々の大地を淡い色の水が満たす絶景が宣伝されている。 しかし、これは詐欺に近い。パムッカレでは観光地化に伴う環境破壊が進行していると理由で立ち入りはあちこちで制限されている。さらに石灰棚を満たす水量が管理され、水が涸れて石灰棚がむき出しの場所も多い。一部人工的に作ったプールに水を注いで観光客を喜ばせているが、明らかに不自然なその景色は痛々しいぐらいだ。
一ヶ所だけ棚田のように細かく複雑に縁取られ段々になった場所に水がとうとうと注がれていた。石灰の溶け出した水が淡い青色となっていて、ポスターで見た景色が広がっている。喜んで写真を撮っていたら、しかし、遠くからホイッスルの音。どうやら立ち入り禁止の場所に知らずに入っていたらしい。
観光と環境の両立。それを考える前に環境破壊が先に進んでしまったパムッカレ。壊された自然を取り戻そうという努力は大歓迎だ。でも、そのやり方を間違っているのではないか。環境の回復を優先させるなら、いっそ全てをしばらく立ち入り禁止にしたらいい。 入場料を徴収しといて、環境のためと言い訳して一番素晴らしい場所を観光客に隠し、干からびた白い大地ばかりを見せつける。そして、パムッカレを訪れた観光客はがっかりしてこの地をあとにする。図らずもパムッカレの素晴らしさを覗き見してしまった僕は、老婆心ながらこのままだと観光も環境も共倒れになるぞ、と警告したい。
パムッカレを夜行バスで去る際、バスターミナルはえらい騒ぎになっていた。男子には兵役の義務が課せられているトルコ。兵役を迎えた友人を盛大に送り出すのがトルコ式らしい。ちょうどそういう時期だったらしく、バスターミナルのあちこちで合唱や胴上げが行われ、とんでもない人でごった返していた。 若者たちのバカ騒ぎに身の危険を感じながら逃げ込むようにバスに飛び乗ると、バスは大衆に囲まれてなかなか動けない。バスターミナルの構内をじりじりと動き、バスはやっと道路に出たがそれでも事は終わらない。次はバスの四方を自動車が並走し、窓から身を乗り出した男たちが友人に手を振っている。迷惑ではあるが、微笑ましくもあるこの光景はパムッカレよりもよっぽど面白かった。
次はカッパドキア。ニョキニョキと地上から生え出たような奇岩で有名なトルコ一の観光地。昔は岩をくりぬいて居室を作り住居や教会として利用されていたが、現在は観光客用の宿や倉庫として使われているものが多いようだ。
僕らはギョレメという町を拠点にカッパドキア観光を始めた。カッパドキアは広い範囲に見所が広がっていて、歩いて回るのは大変。まずはツアーに参加して、一日であちこちを見て回った。 地下十何階までも掘られ、中には学校までもあったデリンクユの地下都市には驚きを隠せなかったが、残りのものはどれも印象が薄い。ハイペースでいろんなものを見すぎると、感情や記憶が追いつかなくなるのかもしれない。
そのことを反省して、というわけでもないが、後日二人でギョレメから遠く離れたパシャバーまで歩いていくことにした。キノコみたいな岩が林立するポイントだ。道を尋ねては迷い、畑の中を歩き回り、途中で無名のキノコ岩を見つけ、二人して斜面で転んで擦り傷を作りながらようやくたどり着いたパシャバーには、何食わぬ顔の観光バスが何台も並んでいてちょっと悲しかった。
でも苦労して、自分たちの歩みの速度で目にした風景たちは今でもよく覚えている。周りの風景を楽しむにはやはり歩きが一番。一歩譲って自転車までだろう。そう思う僕だから、飛行機を使ってあちこち飛び回って「世界一周中です」というのは少し抵抗があるが、現実問題として致し方ないので許してもらいたい。……話が逸れてしまった。 パシャバーからギョレメへの帰り道も歩いたが、途中で日が暮れ、雨が降り始め、雷が鳴り出し、道に迷い……、と漫画みたいに踏んだり蹴ったりだった。さすがに途中で疲れ果て、ヒッチハイクをして町に戻ったときにはすっかり夜だった。
なんだかんだ言いながらそれなりに楽しめたカッパドキアだったが、感じが少し似ているアメリカのブライスキャニオンと比べると、最初に見たブライスキャニオンでの感動が勝ってしまう。世界の絶景を見て回る世界一周は、感動を消費しながらの世界一周でもある。残念ながら……。
イスタンブールからパムッカレ、カッパドキアを経由してシリアに抜けるというのは、バックパッカー定番のコースだが、僕らには定番コースを離れて訪れたい場所があった。 ドクターフィッシュで有名な温泉で、現在も皮膚病の治療施設として機能しているバルクル・カプルジャという場所だ。『なるほど!ザ・ワールド』(古い?)でひょうきん由美がギャアギャア騒いでいた光景を知っている人も少なくないだろう。 バルクル・カプルジャを訪ねる拠点となるカンガルへは、ギョレメからカイセリ、カイセリからシヴァス、シヴァスからカンガルへとバスを三本乗り継いで一日がかりで移動。 トルコ人は基本的に親切でフレンドリーだが、観光地ではそれが面倒くさいこともある。しかし、カンガルのような田舎町では、トルコ人が持ち合わせている人懐っこさと、ちょっと控えめな素朴さがちょうどほどよい感じだった。 商店で買い物すればチャイを振舞われ、バス停に時間を尋ねに行けばチャイを振舞われ、食堂で食事をしててもチャイを振舞われと、どこに行ってもチャイをすすりながら片言の英語での雑談が始まる。それもしつこくなく、一杯のチャイが終われば、じゃあね、って感じで気持ちがいい。
バルクル・カプルジャは温泉という風情はなく、ぬるい湯が満たされたオフシーズンの小学校のプールといった感。プールは男女別。海水パンツをはいて、足のつま先をそろりと湯につける。その瞬間、魚たちが寄ってきてここが普通の温泉でないことを知らされる。トルコ人のおじさんたちを真似て全身を湯に沈める。
魚には二種類いて、一つがハゼみたいな形をしていて体にピタリとくっついて掃除をしてくれるヤツ。こいつが大量にいて、体中を丁寧に掃除してくれる。口周りがざらついているらしく、何十匹もに掃除をされるとビリビリとして電気風呂みたいだ。もう一種類のほうは普通の魚の形をしていて、こっちはあまり数はいないが口先で思いっきりつついてくるので少し痛いぐらいだ。
しばらくするとおじさんたちは去り、広いプールに僕一人になった。このときを待っていた。周りを慎重に確認する。誰もいない。そっと海水パンツを下ろした。猛アタック!バルクル・カプルジャ、癖になりそうです……。
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