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◆夫婦で世界一周





写日記10.いざ!メキシコへ

メキシコ(ティファナ、ラパス、カボ・サン・ルーカス)

2007年9月27日〜10月6日



列車が動き始めるとすぐに一朗君の姿は見えなくなった。レンタカーを利用したグランドサークル周遊では荷物も気にする必要はなかったし、安モーテルといってもある程度のクオリティは保証されていた。治安もそれほど心配はなかったし、言葉だって英語だったらなんとかなった。しかし、これから始まる中南米の旅はそうはいかない。


学生時代に南米横断の一人旅をしたことはあるが、今回は気にかけるべき人間がもう一人いる。そう、二人旅は楽しくていいものだが、心配事がニ倍になるのも事実。だから、僕は前回の南米一人旅のとき以上に、メキシコ入国を目前にして緊張感が高まっていた。


メキシコへの入国は実にあっけない。アメリカからは七十二時間以内の滞在なら入国審査もなしに入れるので、国境にかかる歩道橋を渡り、鉄の回転扉をくぐったらそこはもうメキシコだ。しかし僕らはこのまま旅を続けるので、イミグレに自ら出向いて入国手続きを済ませ、晴れてメキシコの旅が始まることになる。


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この歩道橋の向こうはアメリカ、手前はメキシコ


ティファナというこの国境の町は、アメリカの金の匂いをかぎつけてやってくる輩も多く、メキシコでも治安が悪いほうらしい。八年前にサンディエゴから日帰りで遊びにきたことがあるが、そのときもかなりビビりながら汚い町並みを歩いた。今回は大きな荷物もあるし、心配事も二倍だしビビり度はさらに倍、ドン。


町にはなぜか薬局と歯医者がやたらと多い。医療費の高いアメリカから患者がやってくるというのだろうか。タクシーやレストランの客引きが声をかけてくる。「チョトマテ!」と日本語で呼びかけてくる土産物屋の男もいる。しかし、長くは続かない。引き下がりが早い。


レストランの客引きの兄ちゃんに道を尋ねる。彼はごく普通に道を教えてくれる。「ありがとう」と立ち去る僕に、親切の見返りを求めない。バスターミナルでスペイン語のやり取りに苦労してたら、どこからともなく英語の達者なおっさんがやってくる。あとで通訳料でもせびられるのではと気を揉んだが杞憂に終わる。


そして、バス会社の姉ちゃんも、宿の兄ちゃんも、タコス屋のおっさんもみんな笑顔がいい。治安が悪いどころか、めっちゃええ人たちかも?!


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部屋からタコス屋台をそっと下見


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不安を抱きつつ買いに行ってみる


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具だくさんのタコス。うまかった!


メキシコに関してはあまり情報を持ち合わせていなかったが、一つだけやりたいことがあった。それはカリフォルニア半島(バハ・カリフォルニアと呼ばれる)の南端にあるラパスという町でダイビングをすること。


世界中のダイバー憧れの場所で、ジンベイザメやハンマーヘッドシャーク、マンタといった大物が見られる可能性が高く、運がよければアシカと一緒に泳ぐこともできるという。聞いているだけでよだれが垂れてきそうだ。


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バハ・カリフォルニアはサボテンだらけ


ティファナからバスに二十四時間揺られてラパスに到着すると蒸し暑さにうっとなる。しかし、スペイン語で「平和」を意味する町の名のごとく、きれいとは言えないが穏やかな雰囲気に包まれた町だ。


ティファナで抱いていたメキシコ人に対する好印象はラパスで確信に変わった。陽気で親切。そしてこれが旅行者にとっては重要なのだが、うっとうしくない、のだ。


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旅行者の強い味方、観光ポリス


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宿のロビーにて


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ラパスに漂う平和な空気


リラックスはできるが、海以外にはたいした見所もない退屈な町でもある。ダイビングを翌日に控えた日、僕らはラパスからバスに乗って小旅行をした。ラパスの町中にはきれいなビーチがないので、水好きの嫁さんのリクエストで郊外のビーチに行くことにしたのだ。


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笑いかけると目をそらす男の子


ここでもまたメキシコ人のさわやかな親切に助けられてたどり着いたテコローテビーチは透き通るような青さがどこまでも続き、観光客もほとんどいない穴場だった。水着もシュノーケルも持ってこなかったことを悔やみながら、ビーチでひたすらのんびり。小型のペリカンのような鳥が派手にダイブを繰り返している。地元のおっさんはピクリともしない釣竿を持ったまま、根気よく波打ち際に立ち続けている。


近くにリゾートホテルでもあるのか、ビーチにあったレストランはかなり高め。しかも、楽器を持ったおっさん三人衆が順にテーブルを回って演奏し、チップを稼いでいる。別に演奏はいらないし、チップの相場も分からない僕らはこういうのが苦手。「あー、こっちに歩いてきたで!」とわざとらしく目をそらしていると、三人衆は僕らの前をスルー。なんかそれはそれでちと切ない。「こいつら金持ってなさそうだな」と思われたのだろう。


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素晴らしき透明度!


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僕らをスルーした三人衆


贅沢な時間を過ごした翌日は贅沢な遊びのダイビング。しかし、これが大物が何一つ見られない結果に終わり、期待外れもいいところだった。ボートから水面で休憩しているカメやヒメマンタのジャンプなどは見られたが、海中は透明度も悪かったし、ラパスまで来てこれは悲しすぎる。


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この小魚の群れが一番の見所だった


ここまでせっかく来たんだし、ということで僕らはラパスよりもさらに南にあるロス・カボスまで行くことにした。ラパスはダイビングポイントまでが遠く、船に弱い嫁さんにはつらい。ダイビング料金もロス・カボスのほうが安く、ポイントまでは十分程度とかなり手軽にダイビングが楽しめそうなのだ。


ロス・カボスの中心地のカボ・サン・ルーカスは主にアメリカ人を対象としたリゾート地なので治安もよくこぎれいな分、ホテルの相場が高いのが手痛いがここは割り切ることにする。その分、観光客はバーやディスコでナイトライフを満喫する町で、僕らはホテルの部屋で自炊をし節約を図る。


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さすがメキシコ!スーパーにサボテンが売ってました


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久々の本格自炊。今宵のメニューは親子丼!


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こぎれいなカボ・サン・ルーカスのハーバー


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定番土産のメキシカンハットで記念撮影だけ


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部屋にいた子どもヤモリの可愛いこと!


カボ・サン・ルーカスではDeep Blue Divingというショップでお世話になる。日本語がペラペラのメキシコ人オスカルとその奥さんのサチコさんが経営するショップで、日本人インストラクターのマサミさんもいて心強い。嫁さんはサチコさんとの関西弁トークですっかり癒されていた。


ハーバーを出て十分もするとボートが停止する。リゾート地でもあり港でもあるカボ・サン・ルーカスの沖合いには数隻の豪華客船が停泊していて、ダイバーには圧迫感がある。海に入っても、エンジン音が耳障りだった。


しかし、海中世界は素晴らしい!マサミさんのナイスガイドのおかげで、一本目はタツノオトシゴやイセエビ、そしてウツボやカサゴ、カラフルな熱帯魚まで多様性に富んだ海を楽しむことができた。が、悲しいことにここでカメラが不調。二本目にアシカポイントに行くというのに、全く動かなくなってしまった。


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愛嬌のあるタツノオトシゴ


そして、二本目。いるわ、いるわ、アシカたち。陸上では可愛くてユーモラスなイメージがあるが、海中では大きな体をくねらせて実にスマートに泳いでいる。僕らの近くまで寄ってきては、すっとよけていく。目がパッチリしていてキュートな顔をしている。一方で、アジの群れに突入していく姿はカッコイイ。


あ〜、よかった。アシカショットを押さえられなかったのは残念だったが、これでバハ・カリフォルニアをはるばる南下してきた甲斐があったというものだ。そして、ダイビングに関してテンションが下がりつつあった僕らを、濃い魅力の詰まったロス・カボスの海は再び盛り上げてくれた。


また、世界のどこかでこんな海に出会えるといい。そして、またいつかロス・カボスのアシカたちに会いたいと思う。


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お世話になったDeep Blue Divingの皆さんと



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