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◆夫婦で世界一周





写日記50.破綻国家ジンバブエ

ジンバブエ(ビクトリアの滝)

2008年7月14日〜7月16日



ボツワナのカサネに車を置いたまま、隣国ジンバブエに二泊三日の小旅行に出かけた。あの世界三大瀑布の一つとして有名なビクトリアの滝を見に行くためだ。できればティーダ君で国境を越えてサクッと滝見を済ませたかったが、レンタカー賃借時の契約でジンバブエに乗り入れてはいけないことになっている。


それもそのはず。ジンバブエは戦後史上最悪といわれるインフレが現在進行中。政情や治安の悪化が懸念されている国なのだ。


数年前まではジンバブエは旅行者に人気の国だった。ビクトリアの滝、グレートジンバブエといった観光資源を抱え、物価は安く、人々は大らかで友好的と三拍子揃っていた。イギリスの植民地支配を脱し、黒人国家ジンバブエが1980年に誕生したときには農業、工業、鉱業のバランスのとれた豊かな国で、通貨のジンバブエドルは当時アメリカドルより強かったという。


しかし1987年に大統領に就任したムガベ氏は独裁色の強い政治家だった。彼の打ち出す政策はジンバブエを下り坂に向かわせた。やがて経済が悪化し、深刻なインフレが発生。取られる対応策は場当たり的で、秩序と回復よりも混乱と悪化を招くものばかり。その結果、ここ数年で経済破綻国として知られるようになってしまった。


僕らが訪れる三週間前にジンバブエで大統領選挙が実施された。それは野党関係者の虐殺や拉致を繰り返した明らかな不法選挙だったが、現政権が居座ることが決まった。ケープタウンの宿で、ジンバブエから出稼ぎに来ていた青年がそのニュースを知り、頭を抱えてベッドに座り込んでいたのを覚えている。


そんな状況だから当初はジンバブエを避けて、ザンビア側からビクトリアの滝観光をするつもりでいた(ビクトリアの滝はジンバブエとザンビアの国境にある)。しかし、両側から滝を見たという旅行者によるとジンバブエ側のほうが迫力があると言うし、滝観光の拠点となるビクトリアフォールズという町は特に問題ないと話していた。というわけで、僕らは今ジンバブエとボツワナの国境にいる。


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世界最悪の経済状況となっているジンバブエに入国


国境からビクトリアフォールズまではタクシーで行かざるを得ない。国境で待ち構えていたドライバーの青年が一人30ドル(以下、単にドルと書いている場合はアメリカドルのことを指す)だと言ってきたが、値切ると二人で15ドルになった。ただし、「ほかの客も乗せるからね」という条件付。


ドライバーの兄ちゃんは気のいいヤツだった。僕が煙草に火をつけるのにライターをあちこち探してると、近くの食堂から火のくすぶっている焚き木を持ってきてくれた。ライターを見つけたことを告げると、おどけた仕草で焚き木を戻しに行く彼の後ろ姿にジンバブエの第一印象が刻まれた。


同業者のおっちゃんたちも屈託がない。自分たちの車(中古の日本車)に僕らを連れて行って、例えば「最大積載量500キログラム」といった注意書きをいちいちどういう意味かと尋ねてくる。聞くだけ聞いといて、その後全く気にする様子もなく人も荷物も詰めこめるだけ詰め込んでいたのには苦笑した。


客が集まった。助手席は直径1メートルのたらいを持ったおばちゃんが占め、後部座席には大人四人がギュウギュウ詰めで座ることになった。これが一時間続くのはつらそうだけど、それほど嫌でもなかった。ジンバブエは面白そうな国だ、とポジティブな想いが僕の中で膨らみつつあったからだ。


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ビクトリアの滝の入り口


ビクトリアの滝では満月の夜に虹が見られると知って、数日前から目算で満月の日を予想し、それに合わせてやって来たつもりだった。しかし、読みは甘く三日もずれていた。レンタカーをプレトリアで返す日にちを考えると、ここで三日も待つことはできない。月夜の虹はあきらめざるを得なかった。


ビクトリアの滝と同じく世界三大瀑布の一つに数えられるイグアスの滝を南米で見てきた僕ら。ビクトリアの滝に寄せる期待は小さくはなかったが、月夜の虹も見れないとなった今、イグアスにはかなわないだろうと高をくくりながらゲートをくぐった。


入り口からまっすぐ進んでいくと早速、熱帯雨林の間から高く舞い上がる水しぶきが見えてきた。幾筋もの滝が東西に直線状に並んでいるビクトリアの滝の一番西の部分だ。階段を少し下りたところにある展望ポイントからは、奥のほう(東のほう)の滝が水しぶきでほとんど見えない。水塊が落ちる轟音と滝の水を集めたザンベジ川の激流がすぐ近くにあり、恐怖心を覚えた。


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最初に見たビクトリアの滝。恐いぐらいでした


公園内には熱帯雨林が茂っていて、その中に各展望ポイントへとつながる遊歩道が敷かれている。1.5キロもの幅があるビクトリアの滝を見渡すことができるのは恐らく空からだけだろう。どのポイントからも滝の迫力は伝わってくるが、展望はイマイチだった。


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公園内の遊歩道。ときどきバブーンが現れます


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展望ポイントからは全容がなかなかつかめない


東に進み遊歩道がジャングルではなく草地を通るようになると、だんだんと見晴らしがよくなってくる。と同時に、雨が降るように滝から舞い上がる水しぶきが僕らに降り注いだ。傘の役目を果たしていたジャングルの木々がなくなると、あっという間にびしょ濡れになってしまった。さっさと遠くに逃げるか、じっと耐えて風向きが変わるのを待つしかない。


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奥に進むにつれ、徐々に展望が開けてくる


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カッパだけじゃなく傘も必需品です


ビクトリアフォールズの町からも水煙が見えていたので、迫力はある程度予想していたがそれ以上。雨季には水量が増えすぎて視界がなくなるので滝を見るのには適さない、というのも納得。


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風向きと天気次第で滝は見えたり見えなかったり


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カメラレンズもびしょ濡れです


途中の展望ポイントに立ち寄りながら、最後にたどり着いたのがDanger Point。ここは少し突き出た場所にあるので、数多の滝の連なりが白幕となっている様子を広い視野で見渡せる。風の具合で水しぶきの吹き上がり方が変化し、それに応じて虹は濃淡を変えていた。


ここまで来るとイグアスびいきだった嫁さんの涙腺が緩み始めたようだ。確かにすごい。水と森の楽園だったイグアスに比べると、ビクトリアの滝はストレートで凶暴な感じがする。恐怖心を覚え、むき出しの大自然と向き合っているという実感がひしひしと全身を伝播する。実にアフリカらしい滝だった。


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Danger Pointからの眺め


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こんな滝がずっと連なっています


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よい子はこんなところまで行っちゃいけませんよ


ビクトリアの滝だけでなく町の様子も気になるジンバブエ。まず大変なのが両替だ。観光客が立ち寄るような店ではドルがそのまま使える(というか、ドルしか受け取らないところもある)が、スーパーでの買い物に備えて僕らは2ドルを闇両替することにした。銀行の公定レートは実勢とかけ離れているので、闇両替をするのが当たり前なのだ。


面倒くさい交渉を経て手に入れたのは100,000,000,000ジンバブエドル!一ドル札二枚が、有効期限付きの五百億ジンバブエドル紙幣二枚になったわけだ。その後、8月にはデノミが行われて桁が切り捨てられたというから、お土産にとってある五百億ドル札はプレミアがつくのではないかと密かに期待している。


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これが五百億ジンバブエドル札


手に入れたジンバブエドルを握ってスーパーに行ったがほとんど買えるものはなかった。インフレで物価が高いせいもあるが、商品がほとんどなかった。ボツワナから持ってきたインスタントラーメンや菓子でしのぐことにして、何も買わずにスーパーを出た。


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スーパーの商品棚。空のところが多い


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ジンバブエではひもじかった。インスタントラーメンの昼飯


こんな情勢だから、本来一大観光地のはずなのに町なかで観光客はあまり見かけない。観光客に対して物売りのジンバブエ人がやたらと多いから、僕らを見ると砂漠にオアシスを見つけたかのように人が寄ってくる。


男たちは例えば木彫りのキリンの置き物を最初は20ドルとふっかけてくる。「いらない、いらない」と流して歩いていると、そのうちにこれが5ドルになる。「1ドルなら買ってもいいけど……」とつぶやいてみると、それでいいと言う。足を止めさせるためのハッタリと思ったが、本当に1ドルで買えた。中には「このカバと君のTシャツを交換してくれ」と物々交換を迫ってくる男もいた。金不足、物不足は本当に深刻らしい。


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1ドルで買ったキリンの置き物


帰りにボツワナまでトラックの荷台に乗せてくれた男性はジンバブエ人だったが、ヒッチ代(アフリカでは有料ヒッチが普通)をボツワナ通貨のプーラで請求してきた。彼の家族はカサネに買い物に出かけていて、それを迎えに行くところだという。「ジンバブエにはモノがないからね」と彼は言っていた。


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ヒッチハイクに挑戦するも、なかなか車が通らないので休憩中


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ようやくヒッチ成功!


しかし、三日間の滞在で接したジンバブエの人たちはほとんど例外なくみんな陽気だった。生まれつきの性格、国民性というものが大きいのだろう。ひょっとしたらただ能天気なだけかもしれない。


しかし、世界を旅するだけの金を持っていても不安や不満が絶えない僕から見ると、世界最悪のインフレの国に住む人々はただ同情すべき対象ではなかった。金では買えない彼ら・彼女らの朗らかさに、尊敬や羨望の眼差しを向けることも多々あるのだった。



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