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写日記26.踊るボリビアボリビア(オルーロ、ラパス、コパカバーナ) 2008年2月2日~2月11日 ウユニ塩湖ツアーが終了した日の夕方、僕ら三人はオルーロ行きのバスに乗り込んだ。2月2日と3日はボリビア各地でカーニバルが催されるのだが、そのメッカがオルーロ。新ちゃんに教えてもらうまで知らなかったが、リオのカーニバル、クスコのインティ・ライミと並ぶ南米三大祭りの一つなんだそうな。 カーニバルが始まる2日の朝4時にオルーロに着いた。まだ外は暗く寒いので、ボリビア人の乗客の多くがそうしているように、僕らも夜明けまでバスで仮眠をとらせてもらうことにした。しかし、バスの中でもあまりの寒さになかなか寝付けなかった。 夜が明けたばかりの町に繰り出し宿を探し始める。前夜祭で盛り上がったと見えて、町には酔っ払いが多く、道端で眠っている人も少なくない。建物の陰で抱き合っている男女もちらほら。男たちがあちこちで立ち小便をしていて、通りには嫌な匂いが漂っている。 カーニバル当日だから覚悟はしていたが、空き部屋がなかなか見つからない。寒いし、臭いし、荷物も重いし、面倒くさくなってきたころ、新ちゃんが宿を見つけてきてくれた。 ボリビアは南米一物価の安い国。一人500円レベルの安宿はゴロゴロある。そんな国にあって、提示された料金はトリプルの部屋が二泊で800ボリビアーノ(約12,000円)!!でも冷静に考え、一人一泊あたりにすると2,000円。「カーニバルの時期やからしゃあないな」と言いながら800ボリビアーノもの大金を払った。
五日ぶりのシャワーを浴びて一息ついてたら、にぎやかな演奏と花火の音が聞こえてきた。カーニバルが始まったらしい。僕たちも昼食がてら見物に出かけることにした。 町の中心部を取り囲むように設けられた通路状のカーニバル会場を、派手な衣装に身を包んだ男女が踊りながら進んで行く。ダンサーの前後には鼓笛隊も控えていて、カーニバルを音で彩る。サンバのリズムに合わせてセクシーな腰の動きを披露するブラジルのカーニバルとはまた雰囲気が違う。衣装は派手でも、少し地味な印象が拭えない。
カーニバルだけでなく、祭りの期間中にみんなで水をかけ合うという慣習もどんなものかと楽しみにしていた。しかしこの水かけ(水風船や水鉄砲を使うことが多い)、いざやられると楽しいなんて言ってられない。水がかすかに小便臭いのがすごく気になる。スプレーで泡をかけられることもある。クソ! しかしウユニツアーから続いた連日のハードスケジュールのせいで、まだ気分的にも体調的にも反撃する元気のない僕らは、防戦一方となりながら町を一回りすると、昼寝をして夜の盛り上がりに備えた。
夜のカーニバル会場には昼間とは異なる盛り上がりがあった。観客は酒を飲んですっかり楽しげ。自分たちも満面の笑顔でステップを踏んでいる。ボリビア人ってどちらかというと控えめでシャイなイメージがあったが、この日ばかりはラテンのノリ。 日本人の僕らは目立つ。そんな僕らに陽気に酔った人々から酒がふるまわれる。僕らは観客席のチケットを購入してなかったが、会場に潜り込んでダンサーと並んで踊り歩いてもノープロブレム。踊り、酒を飲む僕らにボリビア人も大喜び。大らかなカーニバルだ。
夜のカーニバルは、さすがに南米三大祭りの一つだけあって豪華絢爛。グループは小さければ数人のものから、百名を超える大きなものまで様々。ブラジルのカーニバルのように衣装も踊りも派手なグループが多いが、中には民族色あふれるグループも。 そして、そんな中でも水風船が飛び交い、泡スプレーがあちこちで噴射されている。カメラを取り出すのも怖いぐらいだ。けど、さすがに踊っている人たちに水や泡をかけるのはご法度らしく、観客同士でのゴタゴタはあってもダンサーたちが臆することはない。 一度、ワル乗りした観客がダンサーの男性にぶつかるのを見た。年に一回の晴れ舞台を邪魔されたそのダンサーは表情を一変させ激怒していた。また、空気の薄い地で、重たい衣装に身を包み激しく踊っているせいだろうか、中にはつらそうな表情で必死に踊り続ける人もいる。そういった場面を見ていると、ただ楽しむためだけではなく、何か懸けているものがそこにあることを感じるカーニバルだった。
翌日はポンチョをかぶって、水風船と泡かけスプレーで武装し水かけに参戦した。手を出すと逆にこてんぱんにやられそうな青年たちは見ないふりをして、ガキンチョばかりに勝負を挑む僕ら。高地でも元気に走り回るガキンチョたちにびしょ濡れ、泡まみれにされてしまったが、それはお互い様。フェアな勝負ができて楽しかったよ、ガキンチョ君たち。 その後、一人でカーニバルを見に行った新ちゃんは一時間後に泥酔して帰ってきた。「乾杯!」という日本語を覚えた観客たちにしこたま飲まされたらしい。夜になってもダウンしている新ちゃんを部屋に残し、夜は嫁さんと二人でカーニバル見学へ。 通りは小便臭でたまらない。うんざりしながら歩いていたが、座り小便をするインディヘナのおばちゃんを見たときにはうんざりを通り越して苦笑い。インディヘナのおばちゃんのフリフリのスカートはこのためか?! この夜は着ぐるみの子どもがてけてけと歩く姿や妖怪みたいな仮面をかぶった男たちの「悪魔の踊り」などが見モノだった。悪魔の踊りには心の悪魔を振り払うといった目的があり、このカーニバルの目玉でもある。にぎやかできらびやかな夜はいつまでも続いた。
翌朝、僕らは小便臭と祭りのあとの侘しさが漂うオルーロの町を離れラパスに向かった。ラパスは富士山とほぼ同じ標高に位置するボリビアの首都(憲法上はスクレが首都)。飛行機で降り立つと高山病になる人もいるという高さだが、ボリビア入国後、ずっとアンデス山中を移動してきた僕らには大した問題ではなかった。 ラパスにバスが近づくとまず見るからに貧しそうなごちゃごちゃとした町並みが始まる。エル・アルトと呼ばれる最近急速に人口が増加しているラパス郊外の町だ。そして、ラパスの町並みが進行方向右手に突如広がったときには、思わず歓声を上げてしまった。 「すり鉢状」とよく表現されるラパスの町は、盆地の底に高層ビルが建ち、周辺の斜面に民家が立ち並んでいる。エル・アルトからすり鉢の斜面を下ってきたバスからは、三次元的に展開される壮観な町並みが見渡せるのだ。
カーニバルのクライマックスは終わったと言えども、まだ祭り期間中なのでラパスでも水かけや泡かけがあちこちで繰り広げられていた。ここでは自動車とすれ違いざまに車内から洗面器の水をかけてきたり、建物の上階から水風船を投げてきたりと、こちらが仕返しをできない卑怯な手口が多かった。僕と新ちゃんはこの状況にイライラし、到着後の二日間はラパスの悪態をついてばかりいた。 祭りの連休が終わるとラパスにも平和が戻ってきた。頭上を気にしながら歩く必要もなくなった今、市場や土産物通りをそぞろ歩きするのも楽しい。昼は日本食レストランでカツ丼に舌鼓を打ち、夜は60円ぐらいでスープとメインディッシュが食べられる安食堂で晩飯を済ます。屋台のハンバーガーはなかなかイケるし、めちゃくちゃ美味いアイスクリーム屋もある。ラパスでグルメを楽しむことになるとは思わなかった。
前出のエル・アルトで週二回ある古着市。僕らも曜日を合わせて行ってみた。運が良ければブランド物のダウンやフリースが100円前後で手に入るらしいが、僕らは1ボリビアーノ(約16円)均一のコーナーで大満足。お特感に酔いしれながらラパスに戻った。
ラパスで有名なものの一つに夜景がある。僕らはミラドール・キリキリという市内にある展望台に歩いて上った。治安が少し心配ではあったが、白熱灯の下でサッカーをする青年や二階の窓から町を眺めているおばさんが親切に道を教えてくれた。 ラパスの夜景はすり鉢にへばりつくように灯りが高さ方向にも広がり、ほかの町にはない独特の美しさがあった。盆地のラパスでは大気汚染がひどそうなものなのに、なぜか空気はしゃきっと澄み渡り光の瞬きも素晴らしかった。
水かけの危険がなくなったあとはすっかりラパスを楽しんだが、最終日に僕が発熱を伴う下痢になり、ちょっと苦い思い出も添えることになってしまった。嫁さんは200円の散髪にトライした結果、僕と新ちゃんの失笑を買っていた。 ラパスで五泊したあと、コパカバーナ行きのバスに乗った。コパカバーナは、富士山より高い地に深く冷たい水を湛えたチチカカ湖の湖畔にある町だ。インカ帝国始まりの地とされ、伝説にも登場する神秘的な場所のはず。なのに、スワンボートが湖畔を埋める景色はなんとも……。ま、僕たちもスワンに乗り込みすっかりはしゃいでしまったが。
チチカカ湖に浮かぶ太陽の島に日帰りで観光に行った。段々の畑が湖畔まで降りてゆく景色などはどことなく沖縄の小さな島を連想させた。島というのはどこにあっても、眠気を誘うようなのんびりとしたエーテルが流れているものらしい。 海のように広く、空のように青いチチカカ湖をどこからも見渡せる太陽の島は神秘的で美しいとは思うが、いかんせんトレッキングルートが長すぎた。大した変化もなく退屈なトレイルを富士山山頂より薄い空気の中、飯も食わず四、五時間も歩き続けるのは途中から苦痛と変わった。五年前に訪れた同じチチカカ湖に浮かぶタキーレ島と比べると、ただ大きいだけで民族色も薄く面白みに欠けるというのが正直な感想。
日程に多少のずれがあるのか、コパカバーナでは僕らが滞在中にカーニバルで盛り上がっていた。水かけが控えめなのは助かったが、カーニバルというよりも地元のおっちゃんやおばちゃんがちょっと正装をして踊っている程度。インディヘナのおばちゃんが踊る踊る!フリフリのスカートが揺れる揺れる!
イースター島で出会い、パタゴニアで一緒にフィッツ・ロイを見上げ、ブエノスアイレスからコパカバーナまで一緒に旅してきた新ちゃんとはここでお別れ。気持ちのよい青空の下で互いの旅の安全を願い、堅い握手をした。次はいつ、どこで会えるだろうか……。
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