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写日記37.ウザくはないけれど……モロッコ(タンジェ、シャウエン、フェズ) 2008年4月30日~5月5日 スペインからジブラルタル海峡を越えると土壁の茶色い町並みが広がるものだと予想していた。が、目の前に迫ってきたモロッコの地に見えるのは、スペインの町と見紛うような白い町だった。 初めてのアフリカ大陸上陸に少しだけ感傷的になりながらも、それ以上に初めてのアラブ圏ということで緊張と不安のほうが勝っていた。だから一見ヨーロッパとなんら変わらないその景色には安心させられた。
背伸びをすれば対岸にスペインが見えそうなタンジェの町は、「世界三大ウザい国」の一つに数えられるモロッコ(残りはインドとエジプト)の中でも、一際ウザいと聞く。フェリーを降りるとすぐにシャウエンという小さな山間の町に向かうバスのチケットを購入し、発車時刻までの数時間をタンジェ観光に当てることにした。 メディナ(城壁に囲まれた旧市街のこと)を当てもなく歩いてみる。特にウザい人にからまれることもなく、道を聞けばちゃんと答えてくれる人ばかり。メディナを歩く女性たちは布で全身を包み隠している。アラビア語は全く解読不能。 どこにだっていい人もウザい人もいることぐらい分かっている。アラブ圏の女性が肌を露出させないということも知っているし、アラビア文字を「ミミズが這ったよう」と例えるのも聞いたことがある。しかし、知識の上に経験を塗り重ねていくことは、たとえ些細なことでも、仕事の役に立たなくても嬉しいもんだ。
広場で出会ったアシュラとオサマといういかにもアラビックな名前の男の子たちは可愛かった。二人で決めのポーズをこそこそと打合せして、次々とそれを僕らの前で披露。写真を撮ってあげると、画像を覗き込んで嬉しそうな顔をする。そんな二人を見守っている母親も笑っていた。モロッコ、今のところウザい印象はなし。
タンジェの次に訪れたシャウエンは山肌にへばりつくように白壁の家屋が建ち並ぶ小さな町。モロッコは国土の大部分がフランス領だったこともあり、公用語のアラビア語のほかにフランス語が通じる。加えて、シャウエンのあるモロッコ北部では一時期スペイン領だったという歴史があり、スペイン語もよく通じる。さらに、観光業にかかわる人には英語を話す人も多く、田舎町でありながら四ヶ国語が飛び交う妙な国際性を醸し出していた。 この町のメディナは白壁を基調としながら一部が水色に塗られていて、女性なんかは「可愛い!」と言って喜びそうな町だが、スペインのフリヒリアナのようには洗練されておらず、華やかさにも欠ける。 一日メディナを散策するともう満足。「ゆっくりするにはうってつけの町」なんてガイドブックには書いてあるが、宿があまり清潔じゃなかったし、町は思った以上に退屈だったのでさっさと退散。
次の目的地は「世界一複雑な迷路」と言われるメディナを有するフェズ。シャウエンからフェズに向かうバスの外には小麦畑のなだらかな丘が連なっていた。小麦畑のずっと向こうには、蜃気楼のように浮かぶ小さな湖。モロッコと聞いて連想する砂漠のイメージにはそぐわない風景が続いていた。
フェズはモロッコでは外せない観光地。さぞかし人もスレているのだろうと思いきや、それほどでもない。確かに日本語で話しかけてくる客引きや料金をぼってくるタクシードライバーはいるものの、深刻な衝突もなく、特に不愉快な思いをすることもなかった。しかし、あとでそのことをほかの旅行者に話すと例外なく「本当ですか?」と怪訝な顔をされたので、僕らは運がよかったか、あるいは鈍いだけだったのかもしれない。
小道に入ってしまえば方向感覚を失い、たちまち迷子になってしまうというフェズのメディナ。幸い道に迷って途方に暮れることもなかったし、悪い人間にもつかまらなかったが、気は張っていたのでのんびり楽しめたというには程遠かった。
モロッコで気を遣うのが写真撮影。アラブ圏の女性は写真を撮られるのを嫌う人が多く、路地の風景を写すつもりでカメラを構えても嫌な顔をされることがあるのでたまらない。 「写真なんて撮ってないで、風景を心に焼き付けなさい」と言う人もいるが、僕は写真は写真で撮っておきたいタチなのだ。モロッコは人も町もどこを切り取っても絵になる国なだけに、気軽に写真撮影ができないのはつらかった。
メディナの中は観光地であると同時に市民の生活の場でもあるから、一部の観光レストランや土産物屋を除いて観光客に媚を売るような雰囲気はあまりない。狭い路地を人間だけでなくウマやロバ、荷車が容赦なく行き交い、外国人だからって特別扱いはしてくれない。 後ろから低いトーンのアラビア語が聞こえたら、おそらくそれはExcuse meの意味。さっさと脇によけないと罵声を浴びせられるかもしれない。喧騒の中でも、独特のトーンを持つその声だけは耳に入ってくるもんだが、嫁さんはこの声に反応する能力に欠けていた。しょっちゅう僕をハラハラさせ、ときにはウマやロバの通行を止めていた。
ヒツジの生首(生首写真:グロテスクなものが苦手な方は絶対に見ないでください!)が並んでいた肉屋や、ミツバチのやりたい放題だった砂糖菓子屋など、スーク(市場)は歩いていて飽きなかった。 夕暮れ時、町に響き渡るアザーン(独特の節を持ったアラビア語で礼拝時間を知らせるもの)には旅情をかき立てられ、宿の屋上で夜風に吹かれながら熱気の残る路地を眺めていると異国情緒を感じた。
モロッコに来てから特にウザい人間にも出くわさず、順調に旅は進んでいる。フェズの魅力も分かったつもりだ。それなのに心からこの国を楽しめていない。頭では面白い国だと考えているのに、その面白さを十分消化するだけの元気がない。長旅の疲れが出てきたのか……。 なめし皮を染色している地区(ダッバーギーン)はフェズで一番の見所。円形の染色桶が並ぶ作業場で、ロバが運んできた皮を職人たちが手作業で染色している。恐らく何百年も同じ作業が人間によって繰り返されているダッバーギーンは、僕たちの贅沢で快適な生活を細かく分解していったときにたどり着く場所を象徴しているようだ。 いろんな思いが頭を駆け巡り、そして目の前で展開される光景に目が釘付けになる。面白い場所だ。面白いんだけど、暑さと匂いでクラクラしそうなこの場所は、今の僕にとってのモロッコを象徴しているようでもあった。
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