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写日記44.裏切られた!エジプト(ダハブ、カイロ) 2008年6月10日~6月22日 ヨルダンからエジプトに向かうには、アカバ湾をフェリーで横断するのが一般的。だが、このフェリーの運航スケジュールが全くいい加減で当てにならず、たかが三時間ほどの航海にすぎないのに一人70ドルも徴収するのですこぶる評判が悪い。 文句を言いながらもこれが一番手軽な移動方法なので、しぶしぶ大枚をはたいた。フェリーの出航待ちをしているときに、クラック・デ・シュバリエに一緒に行ったトモエちゃんと、ペトラで同じドミトリーだったアリサちゃんに再会した。 運良く、僕らのフェリーは予定時刻から「わずか」一時間の遅れで出航した。世界的なダイビングスポットを抱える紅海に続く海なだけあって水の色は鮮やかなブルーで、小魚の群れが太陽光を反射してキラキラと輝いていた。フェリーが動き出すとデッキに出られないのが残念だったが、今から向かうダハブへの期待は高まるばかり。
「世界三大ウザい国」と旅行者の間で不名誉なレッテルを貼られている国がある。インド、モロッコ、そしてエジプトだ。これを裏付けるかのように、エジプトからトルコに向かって北上している旅行者たちの多くは「だんだん人がよくなってくる」と語っていた。ヨルダンを世界で唯一の「嫌いな国」に認定したばかりなのに、エジプトはヨルダンを超えてしまうのだろうか。気の重い入国だ。 下船後、ビザ代を支払うために銀行の窓口に並んだ。僕らが一列に並んでいるところに、あとから来たおっさんたちが続々と割り込む。この国では強気にいかなければとすぐに悟って、"Go back to the end of the line, please!"とおっさんをにらむ。あまり効果なし。 と、そんな僕の前で「後ろに並んでください!」と毅然たる口調の日本語が飛び出た。アリサちゃんだ。おっさんたちには意味不明の言葉のはずだが、アリサちゃんの気迫が伝わったのか、一瞬シュンとした(僕も怖かった……)。でも、彼らはすぐに気を取り直して横入り。体で阻止。先が思いやられる。
フェリーが到着したヌウェイバという町から目的地のダハブまでは70キロ以上ある。タクシーで一時間近くかかる距離だ。はじめは一人100ポンド(約2,000円)とふっかけてきた運ちゃんたちだが、すぐに四人で120ポンドに。しかし目指す100ポンドまで、あと20ポンド下げるのが大変だった。三十分ぐらい時間をかけて交渉成立。 でもこの交渉の過程で、僕はエジプト人に大いに好感を持った。運ちゃんたちにはどこか余裕がある。料金交渉自体は真剣でシビアなものだが、笑いも交えながらの楽しいコミュニケーションでもあった。これがヨルダン人だったら、「そんなんで乗っけられっか!あっち行きな!!」なんてキレられそうだけど、そんな殺伐とした雰囲気はなかった。 タクシーは夕暮れの荒野を飛ばす。この先に町が、ましてやリゾート地があるとは信じ難い風景だ。でもちゃんとダハブはあった。太陽が沈み海は真っ黒だったが、海岸の道路沿いにはレストランやダイビングショップが建ち並ぶ立派なリゾート地だった。なのに安宿もちゃんとあって、僕らが泊まった部屋は一泊20ポンド(約400円)という安さ。シャワーが塩水なのはご愛嬌。
今日一日の移動の疲れをねぎらって四人で乾杯。冷えたビールにシーフード。洒落たレストランに海からの優しい風が吹き抜ける。こんな分かりやすい幸せとは中東では無縁だったから、「あ~、幸せ~」という幸福のため息が四人から交互に漏れていた。
海が目の前にあって、ダイビングでもシュノーケリングでも海中世界が楽しめるダハブ。ガラパゴスのように大物がうじゃうじゃいるわけではないが、サンゴにカラフルな熱帯魚が群れる穏やかで平和な海だった。でも、「これがあの世界的に有名な紅海?」と首をかしげたのも事実。ここは所詮アカバ湾であって、本場紅海とは違うということなのか。
ダハブに流れるゆるゆるとした空気は心地よく、どっかりと腰を下ろしたいところだったが僕は焦っていた。その焦りは中東を旅する間、日々大きくなっていた。一年という旅の期限までもう三ヶ月しかない。「早くアフリカへ行きたい!」 アフリカといってもエジプトやモロッコなどの北アフリカではなく、黒人の住むサハラ以南のブラックアフリカのこと。僕らが手にしている世界一周航空券ではアフリカ大陸はカイロまでしかカバーしていない。だからカイロでさっさとアフリカ行きの航空券を手配して、できる限りの時間をアフリカに充てたかったのだ。
そういうわけで、後ろ髪を引かれつつも五日ほどの滞在でダハブを離れ、カイロに向かうことにした。そしてカイロでケープタウン行きの航空券を購入して、僕はようやく落ち着くことができたのだった。「これでアフリカに行ける……」
エジプトと言えば、ピラミッドをはじめとする古代文明の遺跡が豊富な観光大国だが僕は興味がないし、嫁さんは以前にがっつりと遺跡観光をしたことがある。六月のカイロはもう半端じゃなく暑いし、日中歩いての遺跡見学なんてごめんだ。それでも、重い腰を上げてカイロ郊外にあるギザの三大ピラミッドだけは訪れることにした。
気を失いそうなほど暑くても(実際に嫁さんは帰りに軽く日射病になってしまった)、足を運んでよかったと思わせるものがピラミッドにはあった。まず、大きさに圧倒された。最大のクフ王のピラミッドは高さが146メートルだが、下から仰ぎ見ると数字以上の迫力がある。一段の高さを自分の身長と比べても、その大きさは一目瞭然だ。
そして四角錘という単純明快な形状がいい。複雑壮大な教会建築や寺院建築だと完成形ばかりに目がいって、想像力に乏しい僕はその誕生の過程にまで思いを馳せることができない。しかしピラミッドは幾何学的にシンプルなだけに、完成までの富と労力を想像する余裕が生まれ、改めてこの金字塔の偉大さを推し量ることができた。
ところで、入国前は評判の悪さに尻込みしていたエジプトだが全然ウザくない。そりゃ、観光地ではぼってくるし、日本人と見ると必要以上にフレンドリーな輩もいるので多少そういう要素はある。でもヌウェイバで感じたように、値段交渉はフェアに行われ、どこか楽しげだ。女性たちもほかのムスリム国と比べたらオープンでとっつきやすい。
ピラミッドへはローカルバスを乗り継いで行ったが、僕らが降りるべき場所に着いたら、周りの乗客全員で「ここだ!」と教えてくれた。道を尋ねるとこっちが納得した表情をするまで、根気強く教えてくれる。まあ、どこの国でも地元の人は素朴で親切なものだが、カイロほどの都会かつ観光地で不愉快な目に遭わなかったことには軽く感動を覚えた。
昼間は殺人的に暑いから、夕方から町はにぎやかになる。女性や子どもたちすら深夜徘徊しているから、僕らも安心して夜中に出歩くことができた。得てしてムスリムの国は治安がいいが、夜中のカイロも例外ではなかった。
物価は安く、飯はそこそこ。人はよく、治安は心配なし。これほど居心地のいい国がなぜウザがられるのか、僕らには常々疑問だった。観光地にそれほど行かなかったからなのか、ただ運が良かっただけなのか。エジプトには大して期待してなかったのに、ピラミッドも人も見事に裏切ってくれた。嬉しい意味で。
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